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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)12669号 判決 1973年3月20日

理由

一、被告会社が昭和二六年九月二九日政府(大蔵大臣)からその営業に属する汽船建造のため米国対日援助見返資金の借入として金一億一八四四万円を原告主張の約で借受けたこと(本件債務の成立)、右債務につき被告嶋田が外二名の者と共に連帯保証をしたこと、および右債権がその後日本開発銀行に承継され、同銀行に対しその後原告が本件債務を連帯保証するに至つたことは、いずれも当事者間に争いがない。

《証拠》によると、原告が本件債務の連帯保証人として、主債務者たる被告会社に代つて昭和四五年三月二五日日本開発銀行に対し金二三六〇万円を、いわゆる興名丸進竣口の元本最終弁済分としてその支払をなしたことが認められる。

二、《証拠》によると、本件借入資金によつて建造された興名丸は競売に付され、昭和三八年九月二六日訴外五洋汽船株式会社がこれを競落することにより同汽船に関する原告と被告会社間の傭船契約が終了し、間もなく同年一〇月二二日右五洋汽船株式会社が日本開発銀行に対する本件債務を引受け、これを被担保債権として右興名丸に抵当権を設定した事実が認められるが、「債務の引受」がなされた場合それが当然免責的であると推定するいわれはなく、本件において右債務引受により被告会社が本件債務の責を免れたことを認めるに足るべき証拠は何ら存せず、かえつて、後に述べる《証拠》によればかかる免責の事実はなかつたものと推認するのが相当である。したがつてこの点に関する被告らの抗弁は採用することができない。

三、つぎに、被告嶋田は、本件債務につき共同の連帯保証人である同被告と原告との間の負担部分が、すべて原告にあつて同被告にはないと主張するが、《証拠》によれば、原告は被告会社の譜託をうけて本件債務を保証したのであり、その際被告嶋田ら他の保証人は、将来原告が保証債務を履行した場合に起り得べき原告の被告会社に対する求償請求につきその全額について連帯保証することを約している事実が認められるから、この事実に徴すれば、右共同保証人間の内部関係において原告は全く負担部分を有しないものと認めるべきであり、この認定事実は、前記認定のとおり原告が前記興名丸の傭船者であり、その立場で深い利害関係があるため日本開発銀行に対し本件債務の保証をしたという事実があつても、いささかもそれと矛盾するものでない。

したがつて、原告は、前記代位弁済における出捐額の全額につき、日本開発銀行の被告会社に対する本件債権に法定代位し、それに随伴して右債権の連帯保証人たる被告嶋田に対しても出捐額の全額につき保証債権を行使し得る地位を取得したものである。

四、他方、本件債務の弁済期は前述のとおり当事者間に争いがないから、本件債務ならびに被告嶋田の負う連帯保証債務は、被告嶋田主張の各時期に逐次商事時効五年の消滅時効が完成し、また完成してゆくべき筋合いである。

ところが、原本の存在ならびに《証拠》によると、被告会社は本件債務の借入れをなし、これを資金として興名丸を建造するや、同汽船の上に本件債務を被担保債権として大蔵省のために一番抵当権を設定し、その旨の登記を了し、右抵当権者は右被担保債権の承継に伴い日本開発銀行とあらためられ、その後右興名丸に対しては第三者の申立によつて任意競売手続が開始し、その結果興名丸は昭和三八年九月二六日競落され、日本開発銀行の右抵当権登記は同年一〇月二二日受付をもつて全部抹消されていることが認められ、その際日本開発銀行がいわゆる配当金を受領して一部弁済をうけていることは当事者間に争いがないから、他に特段の事情の認められない限り、右銀行は同年一〇月頃被担保債権の全額をもつて換価代金の交付方を競売裁判所に申出でたものと推認される。すると、本件債務の債権者たる日本開発銀行は、右手続にあずかることによつて、本件債務のうち時効期間進行中のものにつき民法一四七条二号、一五四条に謂う「差押」をなしたものと解すべく、それによつて本件債務の右部分は消滅時効の中断を来たし、またそれに伴い被告嶋田の負う連帯保証債務についても、それが保証であるから民法四五七条一項により時効中断の効力が及んだものである。そして、右中断した時効は、右銀行がその頃右配当金を受領し得べかりしときから再び進行するところ、《証拠》によると、被告会社と被告嶋田は、昭和四三年六月二七日日本開発銀行に対し連名で文書をもつて明確に、かつ古く本件債務成立の年月日も明記した上、同日現在で本件債務(元本・利息・損害金のすべて)を負担していることを承認した事実が認められる。成る程右文書の文面では併せて被告嶋田の連帯保証債務も共に承認する旨明記されてはいないが、被告嶋田は債務承認者として「連帯保証人島田達」なる記名下に押印しているから、同人の承認は、主債務と連帯保証債務のすべてを承認していると解すべきが当然である。この点に関し、被告嶋田本人の第三回供述も右認定をくつがえすに足るものではない。

然らば、被告嶋田の右承認は、既に時効の完成したもの(換言すれば前記認定の「差押」があつた当時既に時効完成していたもの)については時効の完成を知りつつ時効利益を放棄したものと推認すべく、また未完成のものについては時効の進行を中断したことが明らかである。かりに、右承認がすでに時効の完成した部分につき、完成の事実を知らないでなされたものであつたとしても、承認者は、信義則に照らしての債務につき時効を援用することは許されず、結果において変りはない。

すると、被告嶋田の消滅時効の抗弁もまた結局採用するに由ないものである。

五、かくして、被告会社は本件債務の主債務者として、被告嶋田はその連帯保証人として、本件債権に法定代位した原告に対し、金二三六〇万円およびこれに対する代位後の遅延損害金として昭和四五年三月二六日から支払ずみまでの約定利率たる日歩四銭(年一割四分六厘)の割合による金員を、連帯して支払うべき義務がある。

よつて、原告の請求をすべて認容

(裁判官 安井章)

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